素数大富豪の第三歩(戦略を身につける)

(筆者: カステラ(twitter: @graws188390))

先日の記事では素数大富豪で使える素数合成数を紹介しました。 qk-titech.hatenablog.com 本稿では素数大富豪をプレーするうえでの基本テクニックを紹介します。この分野に関しては北大素数大富豪同好会さんの戦略記事があります。大変よく書かれているので一度読むことをお勧めします。この記事の内容を補足したり、基礎的な部分を充実させたりすることが本稿の目的です。 prime-hu.hatenablog.com

一部内容が重複している箇所があります。とくに北大素数大富豪同好会さんの記事を参照する際は【北】で表すことにします。

基本の考え方

いきなりですが素数大富豪の出し方の極論を述べます。

強い素数合成数を出して相手にパスさせ手番をとり、残りの手札を全部出して上がる

具体例で説明します。自分の手番で場には何もなく、手札が(7TQK)だとします(ドローはしない、もしくはドロー済であるとします)。T7とQK(2枚出し最大素数)に分けられますがここではQKから出すべきです。QKに対して相手はそれを上回るには合成数出ししかなく返される可能性は低いと考えられます。一方でT7から出すと相手にQKを先に出され手番をとられ上がられる可能性があります。

ちなみにこれはカクヨムで連載されている素数大富豪小説https://kakuyomu.jp/works/1177354054882787354:title=「QK部 -1213-」第2話に出てくる場面です。

しかし初期手札11枚からこれをやるには難易度がかなり高いです*1。残りの手札が多いためそれを全部出して上がるのは容易ではないからです。ということで普通はあらかじめ手札を消費して残りの手札を減らしておきます。つまり

弱い札を消費し、強い素数合成数を出して相手にパスさせ手番をとり、残りの手札を全部出して上がる

となります。これは【北】における「基本の流れ」そのものです。この進行は実際の試合でもっともよく見る展開なので要チェックです。

初期手札で考えること

初期手札が配られたらまず切り札になりえる素数合成数は何であるかをチェックしましょう(【北】では「最大火力」と表現されています)。2枚出しならQKやそれを超える合成数出し、3枚出しならKTJ以上、4枚出しならKTQJ以上が一応の目安となります(絶対的なものではありません)。そしてその枚数ならどのように他のカードが消費できるかを考えます。知っている多枚出し素数はそれ自体が切り札になりえる*2のでそれも考慮します。

たとえば初期手札が(2344559TJQK)なら 2枚出しなら出せる最大はQK、3枚出しならKTJ、4枚出しならKTQJ となります。次にそれを除いた残りの手札をどのように消費していくか考えます。 (思考の過程は一例です)

  • 2枚出しならQKの次に出せる大きな素数は9Jだがそれを出すと残る奇数が3だけの一方偶数は6枚で厳しい(5は偶数扱い)。代わりに59→2Jなら残りは(3445T)だから先ほどよりややましになったか*3
  • 3枚出しならKTJの前に出す3枚出しとして443を選ぶと残りが(2559Q)で合計が3の倍数(つまりどう並べ替えても3の倍数で素数にならない)。代わりに523だと残りは(4459Q)で合計が3の倍数でないのでこちらにしたい(並べ替え次第では素数になる可能性あり、実際544Q9は素数)。手番のときにドローして奇数が引ければ3枚→3枚→KTJ(切り札)→3枚、とくに7を引ければ3枚→KTJ(切り札)→57(グロタンカット)→4枚もあるのでドローも一考。
  • 4枚出しならKTQJの前に出す4枚出しとして4423を選ぶと残りが(559)で素数にならない(559=13*43)。5443でも残りが(259)で素数にならない(259=7*47, 529=23^2)。5449なら残りは(235)、523で素数となるので5449→KTQJ(切り札)→523と出す。

先手なら一番自信のある枚数で出します。この例だと4枚出しですね。後手なら相手の出方によりますが、小さな3枚出しならこちらは4Q9が出せるので受けて立ってもよいです。相手が3枚出しに出たならKTJ以上の強い3枚出しをもっていそうと考えてドローやカマトト(わざと合成数を出してペナルティを受け手札を増やす戦術)もあり得ます。相手が5449よりも大きな4枚出しだとこちらはKTQJを崩さないといけないのでドローして崩さない可能性を探るか、それでもダメならカマトトも視野に入れます。

2枚出しは偶数の消費効率がよくないので上の例のように少し偶数が多めの手札だと苦しくなります。これが3枚出し以上を積極的に出すこと・偶数消費型素数を覚えることを推奨している理由です。覚えている個数が多いほど上のような組み切りがしやすくなります。

カード消費のポイント

前項では初期手札から切り札となる素数合成数を見つけ、そこから戦略を組み立てる方法を述べましたが、実際の対戦ではその通りにいかないこともしばしばあります。ここでは対戦の中でうまく手札を消費していく方法をみていきます。

絵札を残す・偶数から消費する

切り札は絵札主体の素数合成数になるのでそれを構成する要素となる絵札は残して他のカードから出していくのが基本です。また、偶数(5を含む)のカードは手札に余りやすいので早めに処理します。

グロタンカットに気を付ける

グロタンカット(57)が手札にあるならそれをなるべく崩さないような手組をします。グロタンカットは絵札を失うことなく手番をとる、維持することができるのでかなり強力な存在です。例外はグロタンカットに頼らなくとも勝ち筋が見えるときと相手の上がられそうでグロタンカットを崩してでも出さなければならないときくらいだと思って大丈夫だと思います。

そして相手にグロタンカットを出させないことも考える必要があります。もっとも簡単かつ効果的な方法は57未満の(革命時なら57より大きい)2枚出しを出さないことです。このとき4(革命時は6, 8, 絵札)が2枚出しでは出しづらくなります(4のつく2枚出し素数は4A, 43, 47のみでいずれも57より小さいため。他も同様)。合成数出しで使う、2枚出し以外で使う、最後の上がり素数まで残すなどの工夫が必要です。3枚出し以上でもとくに4の使う素数は早く覚えてしまって、4A, 43, 47以外でも4を使えるようにしましょう。

時には勘出し

素数大富豪をプレーする際に素数表などを参照する行為は基本的に禁止されています*4素数かどうかわからない数でも場に出すことはでき、もし素数でなかったときは出した枚数と同じ枚数だけ山札を引くペナルティを受けるルールでした*5素数かどうかわからない数を出すことは多少勇気がいるプレーですが、【北】で述べられているように勘出しを避けてはいられない場面もありますし、ペナルティをカードを大量に引いて手札を充実させるチャンスと捉えれば勘出しのデメリットは案外小さいものです。意外と当たることも多い(11枚でも2・3・5の倍数を避けて出せば1割強当たります)のでぜひ勘出しにチャレンジしてみてください。

ラマヌジャン革命

ラマヌジャン革命(A729)を出すとそれ以降小さい数が強くなるのでした(再びラマヌジャン革命を出すことで元に戻る)。手札に1桁のカードが多く絵札が少ないとき、相手に絵札*6が固まっていそうでそのままでは相手に分がありそうなときはラマヌジャン革命のチャンスです。A729が手の中に揃ったら崩さずにとっておきたいところですが、グロタンカットも7を消費するので7をどちらに使うべきかはよく考えましょう。

革命下では1桁のカードが多いほど、先頭のカードが小さいほど数として強くなる(つまり小さくなる)ので、Aの価値が非常に高くなります。Aはぜひとも切り札の一部として使いたいので、一の位が1の素数を出すのにAを使うのは避けたほうがよいです*7

グロタンカットの項で述べたのと同様に、相手にラマヌジャン革命を起こされないよう4枚出しには気を付けましょう。平常時はほとんどの4枚出しはA729を超えるので並べ替えてもA729を超える素数をつくることができないA447, A45A, A48Aの3つだけ注意すればよいですが、革命下ではA729はかなり強い数なので容易に革命返しができてしまいます。相手に革命してもらいたい場面を除いて革命下での安易な4枚出しは控えたほうが賢明です。

ラマヌジャン革命が発生したときA729より小さい4枚出しならその場で返すことができますので、A729未満の4枚出し素数も備えましょう。とくにA2X9とA48Xが重要です。

A0A3, A0A9, A02A, A033, A039(ジョーカーを0として使用)
AA23(いい兄さんor勤労感謝の日or Fibonacci数列の最初の4項を連結)
AA29(いい肉)
A223(平成の天皇誕生日、200番目の素数)
A229, A249, A259, A279, A289(A2X9の形、1219=23*53は素数でない)
A45A, A453, A459(1457=31*47は素数でない)
A48A, A483, A487, A489(A48X(石破)は四つ子素数)
A553, A559
A663, A667, A669(A66X(安室)は三つ子素数)
A693, A697, A699(A69X(ヒロキ)は三つ子素数)

小さい合成数もありますが使う機会はあまりないように思います。参考として挙げておきます。

A0A4=2*3*K^2, A0A5=5*7*29, A0A6=2^3*Q7, A0A7=3^2*J3(ジョーカーを0として使用)
A243=J*J3, A469=K*J3, A695=3*5*J3(113の倍数*8 )
A046=2*523, AA26=2*563, AA38=2*569, AA74=2*587, AA86=2*593, A286=2*643, A294=2*647, A486=2*743, A538=2*769(素数の2倍)
A024=2^T, A375=5^3*J, A458=2*3^6(その他)

相手に上がらせない戦略

相手に上がられそうなときは相手の上がりを阻止するプレーをしましょう。こちらが先に上がってしまうのが最善ですが、それが叶わないならこちらの上がりを度外視してでも阻止するほうがよい場面もあります(展開によってはどうしようもない場合もありますが)。ここでは主に2人対戦での戦略を紹介します。

相手の手札の枚数を見る

相手が上がりに近いかどうか(相手の速度)を判断するもっとも簡単な手段は相手の手札の枚数を見ることです。少ないほど上がりに近そうというのは言わずもがなですが、危険度を枚数で表現するのは相手の力量やゲームの展開に大きく依るうえ、あてにならないことも多いです。【北】で述べられている「相手が4枚出しに精通しているなら7枚ぐらい」はひとつの目安として捉えたほうがよいと思います。

相手の手札の枚数という情報は、こちらが親として場に出すときに何枚で出すかの判断に使えます。相手の手札の枚数をn枚とします。

  • n+2枚以上で出せば、相手はドローしてもn+1枚なので返されません。弱い数でも確実に通るのでもっともよい出し方です。
  • 一方でn枚で出すのは相手に「どうぞ上がってください」と言っているようなもので極力避けたほうがよいです。n+1枚も相手がドローすればn枚の場合と同じ状況になるので控えたほうが無難です。
  • n-1枚以下で出すのは相手の即座の上がりはほぼ防げる*9ものの、カマトトされることもあるので注意しなければならないこともあります。

相手に強いカードを消費させる(レベルやや高)

こちらの手札が弱くて戦えなさそう、相手が絵札を多くもっていそうなときは相手に絵札を使わせてこちらの不利を相対的に減らす方法があります。よく使われる方法は手札のちょうど半分の枚数を出すことです。たとえばこちらが手札6枚のときに3枚出しすれば残りは3枚。相手はそれに弱い3枚出しを返しては次にこちらに上がられてしまうおそれがあることから、多少絵札を使ってでも大きな数を返すはずです。次にこちらが出せるのであればそのまま上がりですし、たとえ出せないような大きな数でも相手の絵札を消費させたことにより、相手の今後の戦略に狂いが生じたりする可能性が出てきます。もし最初の時点で手札が7枚なら、ドローしてから4枚出しすればOKです。

2n枚の手札をn枚出し素数2つに分けるのはなかなか大変ですが、有効な場面が少なくないのでたくさん素数を覚えて練習するのがよいと思います。

まとめ

本稿で紹介したテクニックと北大素数大富豪同好会さんの戦略記事を併せれば素数大富豪の基本は概ね身につけられるかと思います。とはいえ、これらの戦略を実戦で運用していくには素数のレパートリーを増やしていくことが不可欠です。3枚出しまではすべて覚えるつもりで頑張りましょう。

また、これらの基本戦略はあくまでも基本です。実戦では基本に当てはまらない場面も多くありますし、敢えて基本どおりに行動しないプレーヤー*10もいます。しかし、それらとの兼ね合いは経験で学んでいくしか術がないのが現状です*11。あなた自身が新たな戦略を開発するつもりで臨みましょう。

*1:大会では初期手札の優劣が激しい際にたまに見ますが。

*2:何枚出しなら勝てるかは相手に依ります。執筆時点(2021年3月)での大会なら8枚は欲しいところですが、6枚でも有効な場合もあります。

*3:たとえば44T53が素数

*4:新しい素数を覚えるために素数表を参照しながら練習することはあります。参考: 「QK部 -1213-」第25話

*5:初心者向けにペナルティをなくしたり、引く枚数を減らしたりすることはありますが、本来のルールでは出した枚数と同じ枚数です。

*6:素数大富豪ではJ, Q, K, ジョーカーだけでなくTも絵札として扱います。つまり「絵札」は2桁の数として扱えるカードという意味になります。

*7:例外はAA, A0A, A02Aなど革命下最強クラスの数。

*8:113はAKでも出せますが革命時にはAの価値が非常に高いので素因数で使うのはもったいないです。

*9:合成数出しがあるので確実ではない。

*10:筆者が該当しそう。

*11:戦略としてまだ確立していないこともあります。